大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和26年(ワ)5095号 判決

原告 日東燃料工業株式会社

被告 常陽化学工業株式会社 外二名

一、主  文

被告常陽化学工業株式会社は原告に対し金五十五万四千七百三十一円五十五銭及び内金五十万五千八百九十一円五十五銭に対する昭和二十六年九月二日から完済に至るまで年六分の割合による、その余の金四万八千八百四十円に対する昭和二十六年九月二日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払うべし。

被告浜本二二男は原告に対し金四十万六千七百九十四円五銭及びこれに対する昭和二十六年九月二日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払うべし。

被告堀部次男は原告に対し金三十万四千九百四円十五銭及びこれに対する昭和二十六年九月二日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払うべし。

原告のその余の請求を棄却する。

訟訴費用はこれを五分し、その四を原告の負担とし、その余を被告等の負担とする。

この判決は、第一乃至第三項に限り原告において、被告常陽化学工業株式会社のため金十八万円、同浜本二二男同堀部次男のため各金十万円の担保を供するときは、それぞれ仮にこれを執行することができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は被告常陽化学工業株式会社は単独で、被告浜本二二男同堀部次男は連帯して、それぞれ原告に対し金二百四十一万九千二百三十三円三銭及びこれに対する昭和二十六年九月二日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告等の連帯負担とする旨の判決並に仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、原告会社も被告会社も共にピツチ(瀝青)煉炭その他の燃料の製造加工並に販売を目的とする株式会社で、被告浜本同堀部はいずれも被告会社の代表権のある取締役にして、被告堀部はその社長の地位にあつて取引の衝に当り、被告浜本はその専務取締役として直接、福島県石城郡内郷町大字綴字堀坂二十六番地所在の被告会社工場の管理経営に当つていたものであるところ、被告浜本は右工場経営のため、原告会社の代表取締役であつた河合好人の知人大矢喜代次郎を通じて原告会社に対し協力援助を求めてきたので、原告会社は右工場の実情を調査した上、被告浜本同堀部と懇談の結果、右工場の能力に応じ少くとも一ケ月五〇〇トンの製品をあげることを目標として、昭和二十六年五月十五日、(イ)被告会社は原告会社の指示に従い、契約締結の日から昭和二十六年十二月末日までの間、原告会社の支給するピツチ及び原料炭を加工して、ピツチ煉炭を製造一手納入すること、(ロ)右委託加工に関し、原告会社は被告会社に対し毎月十日、二十五日の二回に亘り別に協定する委託加工料を支払うこと、(ハ)被告会社は原告会社が被告会社に支給した原料であるピツチ及び原料炭並にその加工製品であるピツチ煉炭の所有権は原告会社に属することを確認し、その保管の責に任ずるという委託加工契約が締結された。そこで原告会社は被告会社に対し、右約旨に従い、原料としてピツチ及び原料炭を支給し、なお昭和二十六年七月九日までに数回に、委託加工料の前渡その他として金八十三万円を交付したところ、被告会社は同年八月十三日までに右原料を使用して合計三三一トン三一〇の製品をあげたにすぎず、しかも内二一一トン〇一〇を昭和二十六年六月十一日から同年七月二十八日までの間に原告会社に納入したのみで、内六五トン〇七〇は昭和二十六年六月二十一日、二十二日及び同年八月四、五日頃に被告浜本同堀部両名共謀の上他に恣に売却処分し、更に内二四トン六四〇を同年八月九日より十八日までの間に同様売却処分した。しかも原告会社は再三被告等に対しかゝる処分行為の停止方を求めたが、被告等は応じなかつた次第なので、原告会社は止むなく右不法処分を理由として被告会社に対し、同年八月二十一日附内容証明郵便を以て、右委託加工契約を解除する旨の意思表示をなし、その頃該郵便は被告会社に到達し、右委託加工契約は解除されるに至りその結果原告会社は次の(1) 乃至(7) 記載のような損害を蒙つたのである。

(1)  原告会社は前記のように被告会社に対し委託加工料の前渡その他として金八十三万円を支払つているところ、原告会社は被告会社に対し(イ)被告会社から昭和二十六年六月五日引継いだ原料炭の代金その他原料炭及びその運賃並にピツチの運賃等の立替金として金二十万千九百七十六円の支払債務があり、又(ロ)本件委託加工契約とは別に被告会社が手持原料により製造したピツチ煉炭一〇五トン三九七をトン当り金二千九百円で買受けたことによる代金債務金三十万五千六百五十一円三十銭の支払債務があり、なお(ハ)を本件委託加工契約により前記のように原告会社は被告会社より二一一トン〇一〇のピツチ煉炭の引渡を受けた外、解除後未処分で残存していたピツチ煉炭一一トン四一〇の引渡を受け又その外に被告会社が本件の委託加工のため製造したピツチ煉炭で、本件委託加工のために焚料として使用した分が一九トン一八〇あるから、右ピツチ煉炭の総量は二四一トン六〇〇となるところ、委託加工料については、遂に具体的な数額を協定するに至らなかつたが、被告会社の利益に、その要求額であるトン当り金七百二十二円によつて清算すれば、右二四一トン六〇〇の委託加工料は金十七万四千四百三十五円二十銭となり、よつて前記金八十三万円から右(イ)(ロ)(ハ)の金額を控除した残額金十四万七千九百三十七円五十銭は被告会社が原告会社に清算上返還すべき金額に該当し、原告会社は同額の損害を蒙つた。

(2)  恣に処分されたピツチ煉炭合計八九トン七一〇については、当時本船積込渡のピツチ煉炭のトン当りの販売価格は金七千二百円で、本件委託加工による製品の引渡場所は被告会社の前記工場であつたから、右金七千二百円からトン当りの運賃諸掛金千二百四十円、本船積込費用金六百七十円を控除し、更にこれからトン当り金七百二十二円の委託加工料を控除し、なお昭和二十六年八月九日から同月十八日までの間に処分された二四トン六四〇については、その原料として被告会社所有の原料炭二二トン一七六が含まれており(ピツチは原告会社の支給したものを使用す)、右原料炭のトン当りの価格は金二千五百二十七円二十銭(総額五万六千四十三円十九銭)であるから更にこれを控除した残額金三十五万三千七百五十二円九銭相当の損害を原告会社は処分された八九トン七一〇に関し直接蒙つたのである。

(3)  原告会社は、昭和二十六年五月七日以降本件委託加工契約に関し、原告会社の取締役、監査役及び使用人並に前記大矢喜代次郎が前記被告会社の工場へ出張するに要した費用及び原告会社が右工場に駐在させた三神典雄の給料宿泊料並にその出張に要した費用として合計金十九万八百七円五十銭を支出したため、同額の損害を蒙つた。

(4)  原告会社は本件委託加工契約による製品の販売喧伝費として合計金八万八千六百十円を支出したため同額の損害を蒙つた。

(5)  原告会社は被告会社から解除後、前記のようにピツチ煉炭一一トン四一〇の引渡しを受けた外に、原告会社が被告会社に原料として支給したものの残としてピツチ九六トン一九〇の返還を受けたのであるが、このピツチ煉炭及びピツチの引取人夫賃並に運賃として、合計金二十一万三千八百七十円を支出し、同額の損害を蒙つた。

(6)  被告会社が約定のとおり昭和二十六年八月一日以降同年十二月末日までの五ケ月間、毎月五〇〇トン宛合計二五〇〇トンのピツチ煉炭を製造の上原告会社に引渡したとするならば、前記の如く当時のピツチ煉炭の本船積込渡のトン当りの価格は金七千二百円であつて、その原価は金六千七百四十三円九十銭である(ピツチ煉炭は原料炭九〇%とピツチ一〇%とを以て製造するのであるが、原料炭の原価は、トン当り購入価格金二千二百円と運賃金百四十円とこの両者の合計額の一〇%に当る額を欠片分として加算合計した金二千八百八円、ピツチの原価はトン当り購入価格金一万一千円と運賃金二百五十円と、この両者の合計額の二%を欠片分として加算合計した金一万一千四百七十五円であるから、右金二千八百八円の九〇%と金一万一千四百七十五円の一〇%との合計額に運賃諸掛として金千二百四十円を加えると金四千九百十四円七十銭となる。しかし被告会社製造のピツチ煉炭は、技術的未熟も加つて運搬上粉化減耗を生ずるので粉化減耗分として右金四千九百十四円七十銭にその一五%に当る金七百三十七円二十銭を加え、これに本船積込費用金六百七十円と委託加工料金七百二十二円を加え、これより前記粉化により生じたものの処分価格(粉売上)金三百円を減ずると金六千七百四十三円九十銭となる)から、原告会社は少くとも一トンにつき金三百五十円総計金八十七万五千円の利益を得べかりしに、これを喪失し同額の損害を蒙つた。

(7)  前記のように、本件委託加工契約が解除の止むなきに至つたため、原告会社はその納入を約していた日本郵船、三井船舶、川崎汽船、日東商船等に対して約定のように納入することができず、燃料が非常に不足していた折柄これ等の会社に対して多大の迷惑を及した結果、原告会社の信用大いに失墜し、原告会社は自己の生産したピツチ煉炭の売渡の申込も三井船舶に拒絶され又従来原告会社が前記諸会社に納入しトン当り金二千五百円の利益をあげていた助燃剤(P・C・C)の売行も半減し、それまで毎月五十トン乃至八十トンを下らなかつたものが二十五トン以下となり約一年の間一ケ月平均金六万円の利益を喪失するに至り、少くとも金五十万円相当の損害を蒙つた。そうして原告会社としては、かゝる結果を極力避けるため、本件委託加工契約の当初から、被告等に対し、履行がない場合は、原告会社は、得意先である前記諸会社の需要を充し得ず、ために信用を失墜し、ひいては原告会社自身の生産したピツチ煉炭や助燃剤の売行まで悪化するに至るべきことを警告しておいたものである。

更に被告会社は、原告会社が被告会社に原料として引渡したピツチを、前のように使用した外に、なお右解除前後に恣に四トン四四〇を使用処分し、ために原告会社は金五万一千二百五十五円九十四銭(トン当り金一万一千五百四十四円十二銭)相当の損害を蒙つた。

従つて、被告会社は原告会社に対し右損害の賠償として合計金二百四十一万九千二百三十三円三銭及びこれに対する本件訴状が被告会社に送達された日の翌日である昭和二十六年九月二日から完済まで年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるからその履行を求める。

次に被告浜本同堀部は一、前記のように共謀の上被告会社が原告会社の所有に属し同会社に対し引渡義務を負うているピツチ煉炭を恣に他に売却処分し、ために原告会社をして、本件委託加工契約を解除するの止むなきに至らしめ又原告会社支給に係る同会社所有のピツチ四トン四四〇を恣に使用処分し、よつて前記総計金二百四十一万九千二百三十三円三銭相当の損害を蒙らしめ、しかもなお、右ピツチ煉炭の売却処分行為が、原告会社をして単に物件所有権を喪失せしめるに止らず、その結果原告会社をして本件委託加工契約を解除するの止むなきに至らしめ、原告会社が前記のような損害を蒙るべきことを認識しながら敢えてかゝる処分行為に出でたものであるから、結局共謀による所有権侵害の結果前記損害を蒙らしめたものとして民法第七百九条第七百十九条の規定により、又右被告両名はいずれも被告会社の取締役として、善良な管理者の注意を以て被告会社のため職務に当るべき一般的義務(商法第二百五十四条、民法第六百四十四条)及び被告会社のため忠実に職務を執行すべき特別の義務(商法第二百五十四条の二)を負うているのであるから、本件委託加工契約についても忠実にその履行に当るべきにかゝわらず、右義務に背反し、敢て職務違反の前記売却乃至使用処分行為をなし、よつて原告会社に対し前記損害を加えたのであるから、商法第二百六十六条の三の規定からも、右被告両名は連帯して原告会社に対し右損害を賠償すべき義務がある。二、かりに被告堀部が右処分行為に関し、被告浜本と共謀した事実がないとしても、被告堀部は被告会社の社長として、被告浜本の処分行為を阻止すべきにかゝわらず、これを阻止しなかつた重過失があるから、やはり前記各法条による賠償責任を免れることはできない。従つて被告浜本、同堀部は原告会社に対し連帯して金二百四十一万九千二百三十三円三銭及びこれに対する本件訴状が同被告等に送達された日の翌日である昭和二十六年九月二日から完済まで年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるから、その履行を求める。と述べ、被告等の主張事実を否認し、本件委託加工契約とは別に原告会社が被告会社から、買受けた被告会社がその手持原料により製造したピツチ煉炭一〇五トン三九七につき、内三〇トンを除くその余も、品質が粗悪な上、当時被告会社としても極度の経営困難にあつたゝめ原告会社の好意にすがり本件契約によつて経営難を切り抜けようと考え、トン当り金二千九百円で原告会社に売渡すことにつき異議がなかつたものである。と附陳した。<立証省略>

被告等訴訟代理人は原告の請求を棄却する旨の判決を求め、答弁として、原告会社も被告会社を原告主張のような会社であること、被告浜本、同堀部はいずれも被告会社の代表権のある取締役で、被告堀部はその社長の地位にあつて取引の衝に当り、被告浜本はその専務取締役として直接原告主張の被告会社工場の管理経営に当つていたものであること、原告会社と被告浜本、同堀部の折衝の結果、昭和二十六年五月十五日、被告会社は契約締結の日から昭和二十六年十二月末日までの間、原告会社の支給するピツチ及び原料炭を加工して、原告会社の指示する規格のピツチ煉炭を製造し原告会社に納入すること、その他原告主張の(ロ)(ハ)の条項については原告主張どおりの委託加工契約が、原、被告両会社の間に締結されたこと、原告会社が被告会社に対し、右約旨に従い原料としてピツチ及び原料炭を支給し、なお昭和二十六年七月九日までに数回に金八十三万円を委託加工料の前渡その他として交付したこと、被告会社が右原料を使用して約三三〇トン(内三五トンはピツチのみ原告会社の支給したものを使用す)の製品をあげ内二一一トン〇一〇を昭和二十六年七月二十八日までに原告会社に引渡し、内六五トンを他に売却処分したこと、原告会社が被告会社に対し原告主張のような理由により昭和二十六年八月二十一日附内容証明郵便を以て、右委託加工契約を解除する旨の意思表示をなし、該郵便がその頃被告会社に到達したこと、原告会社が被告会社に対し昭和二十六年六月五日被告会社から引継いだ原料炭の代金その他原料炭及びその運賃並にピツチの運賃等の立替金として金二十万千九百七十六円の支払債務があり、又本件委託加工契約とは別に、被告会社がその手持原料により製造したピツチ煉炭一〇五トン三九七を買受けたことによる代金支払債務があつたこと、前記解除の意思表示があつた後に、被告会社が原告会社に対し残つていたピツチ煉炭一一トン四一〇と原料として支給されたピツチの残として九六トン一九〇を引渡したこと。委託加工料については遂に具体的な数額の協定が成立するに至らなかつたことは認めるが、その余の原告の主張事実はすべてこれを争う。本件委託加工契約の件は当時被告会社の前記工場の在庫製品及び将来同工場に於て製造すべく製品を原告会社に売渡す交渉中に生じたのであつて、右委託加工契約は被告会社がその保有する原料を以てピツチ煉炭を製造販売することを禁ずるものでもなく、又被告会社がその運営全般に亘り原告会社の指示によるべきことを承認したものでもなく、(原告会社の指示は単に製品の規格の点にとどまる)しかも被告会社が売却処分した六五トンのピツチ煉炭の内三十トンについては、その原料炭はすべて被告会社所有の原料炭を使用して製造したものであり、その余の三十五トンについては、原告会社の承認を得て処分したものである。従つて被告会社に原告の主張するような損害賠償義務ある筈なく、まして被告浜本、同堀部に原告主張のような所為があつたとしても、同被告等は被告会社の機関として同会社のためにした行為であるから、個人として責任を負うべき道理がない。と述べ、更に原告主張の損害中(1) につき、被告会社が原告会社に売渡したピツチ煉炭一〇五トン三九七は優秀な製品で、その代金額は、内三〇トンのみ見本としてトン当り金二千九百円で売渡したにすぎず、その余はトン当り金五千円であるから、合計金四十六万三千九百八十五円となり、又被告会社が本件委託加工契約により製造したピツチ煉炭で、本件委託加工のために焚料として使用したピツチ煉炭は四五トンであるから、これに被告会社が原告会社に現実に引渡したピツチ煉炭を加えると合計二六六トン二四〇となるところ、原告は委託加工料を一方的にトン当り金七百二十二円として計算しているが、もしこの金額によるときは、右二六六トン二四〇の委託加工料は金十九万二千二百二十五円にすぎず、これに対し被告会社が右二六六トン二四〇を製造するに要した労銀は金二十一万円に達し、更にその余の経費を考えると、莫大な赤字経営とならざるを得ないのみならず、更にこれを継続するに於ては被告会社は赤字を出して、原告会社に奉仕せねばならず会社本来の目的に反し、かゝる酷な契約は到底履行を強制し得ない公序良俗に反するものというべきであるから、右二六六トン二四〇の委託加工料はトン当り金千五百円合計金三十九万九千三百六十円を相当とすべく、更にこの外に原告会社は被告会社に対し前記金二十万千九百七十六円を支払うべき債務があるから、これだけでも、被告会社は原告会社から差引き金二十三万五千三百二十一円の支払を受け得べきである。(3) につき、この支出は極めて贅沢であつて、たとえ被告会社に債務不履行の責ありとしても、これにより通常生ずべき損害とはいゝ得ない。(4) につきかゝる支出がなされたとすれば、被告等はこの支出が本件委託加工契約による製品のみについてなされたと認めることはできない。原告の主張によれば原告は本件委託加工契約期間の当初(3) 及び(4) の合計約金二十八万円を既に支出していることになるがその他の経費を考え、その主張する(6) の得べかりし利益と比較すれば、果してかゝる支出をしても企業がなりたち得るものかどうか常識を以てしても、直ちに判断できるところであつて、かくしても経営がなりたつとすれば、それは被告会社に到底認容し得ない犠牲を強いて始めて可能である。と述べた。<立証省略>

三、理  由

原告会社も被告会社も共にピツチ(瀝青)煉炭その他の燃料の製造加工並に販売を目的とする株式会社であること、被告浜本、同堀部はいずれも被告会社の代表権のある取締役にして、被告堀部はその社長の地位にあつて取引の衝に当り、被告浜本はその専務取締役として、直接福島県石城郡内郷町大字綴字堀坂二十六番地所在の被告会社工場の管理経営に当つていたことは当事者間に争いがなく、原告会社と被告会社との間に、昭和二十六年五月十五日(イ)被告会社は契約締結の日から昭和二十六年十二月末日までの間、原告会社の支給するピツチ及び原料炭を加工して、原告会社の指示する規格のピツチ煉炭を製造し、原告会社に納入すること(ロ)右委託加工に関し原告会社は被告会社に対し毎月十日、二十五日の二回に亘り、別に協定する委託加工料を支払うこと、(ハ)被告会社は原告会社が被告会社に支給した原料であるピツチ及び原料炭並にその加工製品であるピツチ煉炭の所有権は原告会社に属することを確認しその保管の責に任ずるという委託加工契約が締結され原告会社が被告会社に対し原料として原料炭及びピツチを支給し、なお昭和二十六年七月九日までに数回に、委託加工料の前渡その他として金八十三万円を交付したことは被告等の認めところである。そうして成立に争のない甲第一、第六号証、証人小林駿也(第一、二回)、同下山留雄、同三神典雄の各証言及びこれ等により真正に成立したと認められる甲第四号証の一乃至五、第七号証の一、二並に原告代表者錦織襄本人訊問の結果を綜合すれば、当時被告会社は前記工場がピツチ煉炭の製造を始めたばかりであつたので、当時原告会社の社長であつた河合好人の知人大矢喜代次郎を通じて原告会社に対し、取引関係を結びその協力を得たい旨を申入れ、原告会社も右工場の実情を調査の上、両者折衝の結果、被告会社が自身当時既に製造手持していたピツチ煉炭を原告会社に於て買上げる契約を結ぶと共に、前記委託加工契約を締結し、委託加工契約期間中は、被告会社は専らこの委託加工のみをなし、他者のためピツチ煉炭の製造販売をしないこと、及び委託加工により被告会社が製造して原告会社に引渡すべきピツチ煉炭の数量については、前記工場の実情に鑑み、当初はこれを一ケ月五〇〇トンとし、以後これを増大させていく約定であつたこと、被告会社は原告会社に対し、前記売買契約に基き合計一〇五トン三九七のピツチ煉炭を昭和二十六年六月初旬頃までに製造の上引渡して、この売買を結了し、残存原料炭を、右委託加工契約による支給原料として引継ぎその頃から右委託加工契約による製造に着手したこと、そうして被告会社が昭和二十六年八月三日までに合計三三一トン三一〇のピツチ煉炭の製品をあげ昭和二十六年七月二十八日までに合計二一一トン〇一〇のピツチ煉炭を原告会社に引渡したが、被告浜本は、原告会社の支給した原料炭とピツチを使用して製造され、従つて原告会社の所有に属し被告会社が原告会社に対し引渡債務を負うピツチ煉炭三一トン〇七〇を昭和二十六年六月二十一、二日頃に、更に三四トンを同年八月四日頃に、いずれも原告会社の承諾なくして、恣に他に売却処分し、このため右ピツチ煉炭合計六五トン〇七〇に関しては、委託加工契約は被告会社の責に帰すべき事由による履行不能となつたことが認められ、証人大矢喜代次郎の証言や被告浜本、同堀部各本人の供述中、右認定に反する部分は信用せず、その他被告等の全立証を以てしても、右認定を覆すに足りない。ところで右委託加工契約の如く信頼関係を前提とする継続的契約関係において、被告会社がかように契約による委託加工に着手後僅々二ケ月にして当時までの生産量の約五分の一に当る六五トン〇七〇にのぼる製品に関して履行不能を生ぜしめた以上、原告会社はこれを理由として、右委託加工契約を解除し、これを将来に向つて消滅させることができるというべく、原告会社が右履行不能を理由として昭和二十八年八月二十一日附内容証明郵便を以て右委託加工契約を解除する旨の意思表示をなし、その頃該郵便が被告会社に到達したことは当事者間に争いがないから、これにより右委託加工契約は終了するに至つたといわねばならない。

第一、よつて先づ被告会社の責任について判断する。

(一)  本件委託加工契約終了に伴い、被告会社は原告会社に対し、前記金八十三万円については清算上余剰があれば、法律上の原因なき利得としてこれを返還し、且つ被告会社の前記債務不履行により原告会社の蒙つた損害を賠償すべき義務があるわけであるから、先づ被告会社について原告の主張する(1) 乃至(7) について順次検討することとする。

(1)について。原告会社が被告会社に対し委託加工料の前渡その他として金八十三万円を交付したことは前記の通りであるところ、(イ)原告会社が被告会社に対し昭和二十六年六月五日被告会社から引継いだ原料炭の代金その他原料炭及びその運賃並にピツチの運賃等の立替金として金二十万千九百七十六円の支払債務があることは当事者間に争いなく、又(ロ)前記原告会社が被告会社から買受けた一〇五トン三九七のピツチ煉炭の内、三〇トンの代価がトン当り金二千九百円であつたことは当事者間に争いがなく、その余の七〇トンについては、被告等はトン当り金五千円であつた旨主張するけれども、これを認めるに足る証明がないから、この七〇トンについても、原告の認めるトン当り金二千九百円とし、右一〇五トン三九七の代金総額は金三十万五千六百五十一円三十銭とする外はない。次に(ハ)委託加工料については遂に具体的な数額を協定するに至らなかつたことは当事者間に争いがないが、前記甲第六号証によれば、被告会社が原告会社に対し燃料費金九十円を含めて、トン当り金八百十二円を以て、委託加工料とすべき旨を申入れたことが認められるから、これによるのが相当である。(被告等はこれに以て本件委託加工契約の委託加工料とするときは、被告会社の経営は成り立たず本件委託加工契約は被告会社にとつて甚だ苛酷な契約であり、公序良俗に反する無効なものとなるから、トン当り金千五百円を相当とすべきである旨主張するが、唯単に或る契約が一当事者にとつて、著しく不利益であるからといつて、――当該当事者の無思慮とか窮迫に乗じて不当の利益を得ようというが如き事情が加わらなければ――直ちにその契約が無効となつたり、修正がなさるべきであるということはできない。)そうして被告会社が本件委託加工のため製造したピツチ煉炭で、本件委託加工のために焚料として使用した分について、被告等は四五トンであると主張するが、これを認めるに足る証明がないから、原告の認める一九トン一八〇とする外なく従つてこれに当事者間に争いのない解除後原告会社が被告会社より引渡を受けたピツチ煉炭一一トン四一〇と前記二一一トン〇一〇を加えた合計二四一トン六〇〇について、トン当り前記金八百十二円から燃料費として計上されている金九十円を控除した金七百二十二円を以て計算した金十七万四千四百三十五円二十銭を原告会社は被告会社に支払うべき義務があると認むべきである。よつて、右(イ)(ロ)(ハ)の合計額を前記金八十三万円から差引いた残額金十四万七千九百三十七円五十銭は、被告会社は清算上これを原告会社に返還すべき義務があるというべきである。

(2)について。本件のピツチ煉炭については前記不法売却処分当時本船積込渡のトン当りの販売価格が一般に金七千二百円であつたことは、これを認めるに足る証明なく、却つて証人小林駿也(第一回)同村瀬祥樹の各証言によれば、その価格は昭和二十六年六月下旬当時は金六千四百円、同年八月上旬当時は金六千八百円であつたことが認められ、この場合所要経費として、委託加工料の外に通常被告会社の前記工場からの運賃諸掛として、トン当り金千二百四十円を要すること、右運搬上の粉化減耗分として一五%を加算すべきこと、本船積込費用としてトン当り金六百七十円を要すること、並に前記粉化減耗分の処分により、本船積込渡のピツチ煉炭一トンにつき金三百円が得られることは、証人小林駿也の証言(第一、二回)によつて認めるに足り、(この点については被告等は、これ以上の経費を要することや粉化減耗分の処分によりかゝる金額は得られぬことについて何等主張も立証もしない。)従つて金六千四百円から委託加工料七百二十二円と前記金千二百四十円の合計額に、その十六%に当る金額を前記金六百七十円とを加えた金額を控除し、これに前記金三百円を加うべくそうするとその額は金三千七百七十三円七十銭となる。そうして前記減耗分即ち本船積込渡の一トンには、被告会社から引渡された一トン一五〇分を必要とすることを考えると不法に処分された三一トン〇七〇のピツチ煉炭は本船積込渡の場合二七トンとなるから右金三千七百七十三円七十銭に二七を乗じた金十万千八百八十九円九十銭を以て、右三一トン〇七〇のピツチ煉炭自体に関し、原告会社の蒙つた損害と認むべきである。次に昭和二十六年八月四日頃処分されたピツチ煉炭三四トンにつき、前記トン当り金六千八百円によつて同様の計算を施せば(本船積込渡の場合のトン数は二九、五トンである)右ピツチ煉炭三四トン自体に関し原告会社の蒙つた損害は金十二万三千百二十四円十五銭となるから、被告会社は原告会社に対し右合計金二十二万五千十四円五銭を、賠償として支払うべき義務があるといわねばならない。しかしながら昭和二十六年八月九日から十八日までの間に処分したと原告の主張するピツチ煉炭二四トン六四〇については、原告の主張によればピツチ煉炭は原料炭九〇%とピツチ一〇%とで製造するところ、その原料炭はすべて被告会社所有のものが使用されたというのであるから、もとより被告会社がかゝるピツチ煉炭を製造他に売却したことは、本件委託加工契約上、原告会社以外の者のため、ピツチ煉炭の製造販売をしない義務を負うた以上、これに違反する所為であるけれども、右ピツチ煉炭が本件委託加工契約によつて原告会社の所有に属し、被告会社にこれを原告会社に引渡すべき義務があると認めるを得ないから、この点に関する原告の主張は理由がない。

(3)及び(4) について。これ等の諸費用中、原告会社が被告会社に駐在させた三神典雄の給料、宿泊料並に販売喧伝費は、本件委託加工契約に基き原告会社が被告会社にピツチ煉炭を製造させて、これを他に販売するに必要な経費に外ならないところ、この中原告会社が現実に被告会社から引渡を受けたピツチ煉炭に関する部分は、固より損害と称することはできない。又原告は(2) において、被告浜本が売却処分したピツチ煉炭六五トン〇七〇につき、本船積込渡の販売価格(トン当り七千二百円)より、支出を免れたものとして、運賃諸掛本船積込費用、委託加工料を控除した金額を基礎として、賠償額を算定して、その支払を求め、又(6) において、昭和二十六年八月一日以降に引渡を受けるべかりしピツチ煉炭二五〇〇トンにつき、本船積込渡の販売価格(トン当り金七千二百円)より、支出を免れたものとして、原料代、運賃諸掛、本船積込費用、委託加工料を控除した金額を以て得べかりし利益の喪失による損害額をして、その賠償を求めているのであるから前記給料、宿泊料並に販売喧伝費中これ等のピツチ煉炭に関する部分にして、原告会社が被告会社よりこれ等のピツチ煉炭を製造の上引渡を受けられなくなつたため、原告会社の損失に帰したといゝ得べきものはすべて経済上当然原告が請求原因の(2) 及び(6) において、請求している賠償額中に包含されて請求されていると考えねばならないのであつて(この賠償額に包含されているとみるべき右費用が事実において、この賠償額によつては償われない結果となつたとすれば、この償われないものは被告等の主張するように、もともと被告会社がこれ等のピツチ煉炭を製造の上引渡し、本件委託加工契約を履行したとしても、原告会社の負担に帰すべかりし過大な経費の支出にして、被告会社の債務不履行のために原告会社の蒙つた損害ということを得ないものである。)従つて右(2) 及び(6) について判断をすれば足りるといわねばならない。そうするとこの給料、宿泊料並に販売喧伝費中昭和二十六年七月三十一日までに製造引渡さるべかりしピツチ煉炭中、現実に引渡を受けたもの及び被告浜本が売却処分したものを除くその余に関する部分が残ることになるが、この部分の数額は、これを確定し難いのみならず、後記第一の(一)(6) において判断されているように、ピツチ煉炭の本船積込渡の販売価格より、原料代、運賃諸掛、本船積込費用、委託加工料を控除した残額もこれを確定することができないのであるから、このピツチ煉炭に関して右給料等の費用を支出したことによる損害額も亦確定することができない。次に出張費についてもこれが上述のような必要経費をなすものとすれば、すべて上述するところと同様であり、これが、かゝる経費ではなく、専ら被告会社の前記債務不履行に基因する止むを得ない特別の出費と認めしめるに足る証明はない。よつてこの点に関する原告の主張はすべて失当とせざるを得ない。

(5)について。解除後原告会社が被告会社から引渡を受けたピツチ煉炭二トン一四〇についてはこのピツチ煉炭が本件委託加工契約に基いて、原告会社に引渡されたとしても、原告会社は当然その引取費用を支出せざるを得ないのであるから、(本件契約における引渡場所が被告会社の工場渡の約定であつたことは原告自ら主張するところである。)特に解除後の引渡であるがために、余分の費用を支出し、この余分の費用の賠償を請求するというような場合でない限り、引取費用の支出を以て、原告会社の蒙つた損害ということを得ない。次に解除後原告会社が被告会社に原料として支給したものの残としてピツチ九六トン一九〇の返還を受けたことは当事者間に争いなく、小林駿也の証言(第一、二回)とこれにより真正に成立したと認められる甲第十四号証の四乃至一〇によれば、原告会社は右ピツチを名古屋に在る同会社の工場へ輸送し その運賃として合計金十三万二千九百四十円を支出したこと、原告会社の工場中、最も近いところにあるのは、名古屋にある右工場で、原告会社が、この工場へ輸送したことは、右ピツチの利用上已むを得ない措置にして、このため、原告会社が右支出額相当の損害を蒙つたことが認められ、そうして少くとも被告浜本従つて被告会社は、前記履行不能を生ぜしめた当時に於て、かゝる結果は当然予見し得べかりしものと認めるべきであるから、被告会社は原告会社に対し、右損害を賠償すべき義務がある。しかし右金額を超えて原告会社が右ピツチのみの引取のため支出した費用については、これを認めるに足る証明がないから、右金額を超える部分に関する原告の主張は理由がない。

(6)について。昭和二十六年八月上旬当時の本船積込渡のピツチ煉炭のトン当りの価格が金六千八百円であつたことは前記の通りであるところ、その後若干の値上りは考えられるけれども、その額は不明であり、原告主張の二五〇〇トンのピツチ煉炭を原告会社に於て当時トン当り金七千二百円で売却し得たという事実はこれを認めるに足る証明がなく、一方原告の原価の計算については、更に燃料費金九十円及びこの燃料費金九十円を含めた委託加工料金八百十二円の一五%に当る金額をも加算すべきであるから、原告主張の如き得べかりし利益を直ちに認めることはできないのみならず得べかりし利益の算定ができない。

(7)について。かりに原告主張の如く原告会社が信用を失墜し自身のピツチ煉炭や助燃剤の売行に減少を表した事実があるとしても、ピツチ煉炭の売行減少による損害については具体的な数額の主張がないのみならず、原告会社がかゝるピツチ煉炭や助燃剤の売行減少による損害を蒙るべきことを被告等に於て認識し又は認識し得べかりしことはこれを認めるに足る証明がない。(原告会社は被告に対し、かゝる損害を生ずべきことを警告したと主張するけれども、これを認める証明がない)従つてこの原告の主張もこれを認めるを得ない。

(二)  原告会社が原料として支給したピツチの残として九六トン一九〇を被告会社から解除後返還を受けたことは当事者間に争がなく、証人小林駿也(第一、二回)、同三神典雄の各証言を綜合すれば、原告会社が原料として支給したピツチの昭和二十六年八月三日現在の残が百トン六三〇であつて、その差額四トン四四〇は被告浜本が、この間に被告会社自身のピツチ煉炭製造に使用処分したと認めるのが相当であつて、右認定を覆すに足る証明はない。(証人三神典雄の昭和二十六年八月九日、十四日及び十八日に被告会社が処分したピツチ煉炭について、その原料炭が被告会社のものであるという供述は、証人小林駿也の証言(第二回)と考え合せると、右ピツチ煉炭は昭和二十六年八月四日以降の製造に係るから、そうなるという趣旨と解せられ、従つて原告が右ピツチ煉炭について、前記のように昭和二十六年八月三日までに製造されたと認むべきピツチ煉炭の一部が処分され、しかもその原料炭が被告会社のものであるかの如く主張するのは誤解に基くものと思われる。)そうして当時ピツチのトン当りの特価が金一万一千円を下らなかつたことは証人小林駿也の証言(第二回)によつて認められる(原告はトン当り金一万一千五百四十四円十二銭を主張するが、その証明なく、又原告はピツチ煉炭の原価の計算の場合には金一万一千円として主張している)から、被告会社はその代表取締役たる被告浜本がその職務を行うにつき、原告会社に加えた損害の賠償として、原告会社に対し、右ピツチ四トン四四〇の時価に相当する金四万八千八百四十円を支払うべき義務がある。

(三)  以上により被告会社は原告会社に対し合計金五十五万四千七百三十一円五十五銭を支払うべきである。

第二、被告浜本同堀部の責任について、考えるに、先づ被告浜本が前記のように原告会社の所有に属するピツチ煉炭六五トン〇七〇を処分した行為は、原告会社の所有権を侵害する不法行為であるところ被告会社の取締役で、同会社の前記工場の管理経営に当つていた被告浜本として、右不法行為当時、その結果右ピツチ煉炭六五トン〇七〇につき本件委託加工契約により被告会社の負う債務に被告会社の責に帰すべき事由による履行不能を来し、本件委託加工契約が解除され、右ピツチ煉炭自体について、原告会社が前記のような合計金二十二万五千十四円五銭相当の損害を蒙るのみならず、支給原料の残を、最寄りの工場へ引取る費用として前記のように金十三万二千九百四十円を支出せざるを得ず、かゝる損害をも蒙らしむるに至るべきことを少くとも予見し得たものというべきであるから、被告浜本は原告会社に対し右損害を賠償すべき義務があり、又前記被告浜本のピツチ四トン四四〇を不法に使用処分した行為も同じく原告会社の所有権を侵害する不法行為にして、このため原告会社はその時価相当額たる金四万八千八百四十円の損害を蒙つたのであるから、被告浜本はこの損害を賠償すべきである。被告浜本は被告会社の機関として同会社のためにした行為であるから、個人として責任を負うべきではないと主張するけれども、会社の機関としてその職務に関してなした行為であつても、機関たる個人として、独立に不法行為の要件を具備するに於ては、個人としての責任を免れることを得ないと解すべきであるからこの主張は採用し難い。しかしながら原告主張の(1) の金十四万七千九百三十七円については、前記のように被告会社が、本件委託加工契約の終了に伴い原告会社に、返還すべき義務を負うべきものであつて、直ちに原告会社の蒙つた損害と称することはできないから、被告浜本にその賠償義務を認める事を得ずその余の原告主張の賠償義務は被告浜本についてもこれを認めるに由なきこと前述したところによつて明らかである。従つて被告浜本は原告会社に対し合計金四十万六千七百九十四円五銭を支払うべき義務があるといわねばならない。

次に被告堀部の責任について考えるに、被告堀部が被告浜本の前記ピツチ煉炭、ピツチの処分行為に、被告浜本と共謀関与した事実は勿論、事前にこれを知つていたということすらもこれを認むべき証明が何等ないから、被告堀部に関する原告の一の主張は理由がない。しかしながら成立に争のない甲第一号証と被告浜本、同堀部各本人訊問の結果によれば、被告堀部は、実弟の被告浜本が、被告会社を経営してピツチ煉炭製造事業を営むことを計画し、同被告からこれに対する出資を求められ、これに応じて出資した関係で、被告会社の代表取締役となり社長を称することになつたものであるが、本来医師で名古屋において開業しており、殆ど被告会社の業務の処理に関与せず、これを全く同じく代表取締役となつた被告浜本に委ね、被告浜本が専ら被告会社の業務の処理に当つていて、本件委託加工契約も被告浜本が主として原告会社と交渉し、被告堀部は単に社長としての名義上、被告会社の代表者としてその締結に当つたのであり、又被告堀部が被告会社へ赴いたのは数回にして、しかも被告会社の営業開始後は僅か一日(被告浜本の前記ピツチ煉炭の処分前)工場の運転状況を見にいつたにすぎず、被告会社の状況については、時々被告浜本から報告を受けた程度であつたこと、前記被告浜本のピツチの処分行為についても被告浜本からその報告を受けてこれを知つた位でしかも右報告を受けても、格別将来に対するかゝる所為の防止措置を講ずることもなかつたことが認められ、そうして株式会社の取締役は会社に対し善良なる管理者の注意を以て会社の業務を執行すべき義務並に会社のため忠実にその職務を遂行すべき義務を負うから、取締役たる者は会社のため他の取締役の業務執行についても、これが注意を怠らず、職務に違背する不当な業務執行行為については、未然にこれを防止し以て会社企業の利益をはかるべき義務があるというべく、従つて前記認定の事実によれば、被告堀部は被告会社の取締役であるにかゝわらず、被告会社に対する関心が極めて薄く取締役として果すべき叙上の義務を懈怠し、その結果被告浜本の前記ピツチ煉炭並にピツチの処分行為を生ぜしめて原告会社に損害を蒙らしめたものと認めざるを得ず、これを覆すに足る証明はない。そこで以上認定の事実から考察するに、かゝる事態のもとにおいては第一回の処分行為は固より、その後の処分行為についても、第一回と第二回の各処分行為の間には一ケ月以上の日時が存し、又第三回の処分行為は、その対象、処分の態様において前二者と異ること等を考えると、直ちに被告堀部が、前記のようにその義務を懈怠した結果、被告浜本のピツチ煉炭並にピツチの処分行為を生ぜしめたことを認識せざりしことにつき被告堀部に過失の責任を認め難く、他にこれを肯認するに足る事情も認むべき証明なく、従つて被告堀部に対し過失による不法行為責任を問う原告の請求も理由がないとしなければならないけれども、被告堀部は被告会社の取締役であるにかゝわらず、著しくその職務を懈怠したものにして、しかも同被告がこの懈怠の事実を知らず懈怠の事実なしと考えたとするも、それは、実弟たる被告浜本を信頼したためであるにせよ、被告会社の取締役として著しく注意を欠いた結果というべく、右職務懈怠については少くとも被告堀部に重過失の責任を認むべきを以て、被告堀部は昭和二十六年七月一日以降においては商法第二百六十六条ノ三の規定に従い右職務懈怠の結果、被告浜本のピツチ煉炭並にピツチの処分行為を介して原告会社に蒙らしめた損害を原告会社に対し賠償すべく被告堀部も右職務懈怠当時、被告浜本のピツチ煉炭の処分行為が、ひいては本件委託加工契約の解除を来し、支給原料の残を最寄り工場へ引取る費用を原告会社が負担せざるを得ざるに至るべきことを少くとも予見し得べかりしものというべきであるから、被告堀部は原告会社に対し前記第一の(一)の(2) の内被告浜本が昭和二十六年八月四日頃売却処分したピツチ煉炭三四トンにつき原告会社の直接蒙つた損害金十二万三千百二十四円十五銭、第一の(一)の(5) 記載の金十三万二千九百四十円第一の(二)記載の金四万八千八百四十円合計金三十万四千九百四円十五銭を支払うべき義務があるといわねばならない。しかし、前記第一の(一)の(2) の内、被告浜本が売却処分したピツチ煉炭三一トン〇七〇に関する損害は、昭和二十六年六月二十一、二日頃の事実にかゝわるものであるから、被告堀部にその賠償責任を認めることはできない又その余の原告主張の賠償義務は被告堀部についても理由なきこと上来説明したところから明かであろう。

第三、然らば原告に対し被告会社は、金五十五万四千七百三十一円五十五銭及び内金五十万五千八百九十一円五十五銭に対しては本件訴状送達の日の翌日であること記録上明な昭和二十六年九月二日から完済まで年六分の割合による、その余の金四万八千八百四十円に対しては同日より完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金を、被告浜本は金四十万六千七百九十四円五銭及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日であること記録上明な昭和二十六年九月二日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金を、被告堀部は金三十万四千九百四円十五銭及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日であること記録上明な昭和二十六年九月二日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、従つて原告の本訴請求は右限度においてこれを正当として認容すべく、その余はすべて失当として棄却すべきである。

よつて訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九十二条、第九十三条、第九十五条仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して主文のとおり判決する次第である。

(裁判官 古原勇雄 福島逸雄 園田治)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!